マインクラフト内に記憶の宮殿を建てる

マインクラフトを使って、記憶の宮殿を作る試みを行っています。

いまは主に英単語を覚えようとしています。

動画

記憶の宮殿とは

記憶の宮殿は、非常に古くからある記憶術です。

2,500 年ほど前、古代ギリシャの詩人シモニデスが、記憶の宮殿を発明したと言われています。

ある宴会で天井が崩れ落ち、たった一人生き延びたシモニデスは、出席者がどこに座っていたかを完璧に思い出せることに気づきます。

シモニデスは目を閉じて、記憶の中で崩壊した建物を再び組み立てた。驚異的な再現力により、彼は悲劇の晩餐でどの客人がどこに座っていたのかも思い出すことが出来た。部屋の見取り図を意識して憶えようとしたわけではなかったのに、記憶の中にずっと残っていたのだ。このシンプルな発見から、いわゆる「記憶術」の基盤となるテクニックが編み出されたと言われている。

エドは、宴席に並んでいるのが客人ではなく別の人や物であったとしても、例えばギリシャの偉大な劇作家が生まれた順番に座っていたとしても、自分の詩の言葉だったとしても、あるいはその日にやらなければならない仕事の内容だったとしても、空間記憶を使って憶えれば、たいていのことは、並んでいる順番のまま脳に刻み込むことができると確信していた。(中略)

「ジョシュ、わかってほしいのは、人間は本当に場所を憶えることに長けているってことだ」

ごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由

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詳しくは Wikipedia 記憶術 場所法を見てください。下のプレゼンテーション動画もおすすめです。

これをマインクラフトを使ってやると楽しいので試してみませんか、というお誘いが、本記事の内容です。

既存の試みとの比較

こんなナイスなアイディアを思いつくのは世界で自分だけだろう、などと一瞬思いましたが、ググったら全くそんなことはなくて、何年も前からたくさんの人がこのアイディアについて書いたり動画を作ったりしていました。

自分の試している方法に、多少なりともオリジナリティがあるとしたら、

  • 屋外を使う
  • 看板を使う
  • パターンを使う

とかかなと思います。

大建築を作るのも楽しそうですが、基本的には屋外を使っています。 屋外のいいところは、いくらでも自動で生成されるところです。

PC版のマインクラフトは地球の約8倍の広さがあるそうなので、実質、無限に土地を使えます。 マインクラフトが生成する風景は、壁に囲まれた屋内よりもダイナミックで記憶に残りやすいように思います。夕焼けや雲の流れ、天候の変化、歩き回る動物が、単調になるのを防いでくれます。

パターン

試行錯誤してみた中で、特にうまく機能しそうだった、いくつかのパターンを紹介します。

Circle

Circle パターンは、12個の単語のグループを作り、円形に配置します。

アルファベット順、時計回りに、看板で円を作ります。

例えば、conf* で始まる12個の単語。

confection 砂糖菓子 / confederate 連合国・共犯者・南部連合 / confer 相談する
confide 打ち明ける / confine 閉じ込める / confiscate 没収する
conflagration 大火事 / conflate まとめる / confluence 川の合流点
conform 適合する / confound 混乱させる / confrontation 対立

看板の後ろに、単語を思い出す手がかりになるようなオブジェクトを配置します。ちょうど、ストーンヘンジのような見た目になります。

単語はアルファベット順に並んでいるので、一部の単語が思い出せれば、間にある単語のスペルの範囲がわかります。 東西南北4つの単語を憶えていれば、間2つを思い出すのは、そんなに難しくありません。

寝る前や入浴時に、頭の中でサークルを歩き回ります。

12個の単語でストーリーを作るのも、いいのではないかと思います。上の conf* の単語だったら、砂糖菓子職人が共犯者と一緒に金庫破りを計画し仲間割れしていく話とか。

8個、16 個、20 個のサークルも作っていますが、12 個 〜 16 個がちょうどいい感じでした。

12個

16個

20個

12 + 8 の二重のサークル。外側の円と内側の円で関連を出せるのはいいんですが、ちょっと複雑かもしれません。

サークルに単語が入りきらない場合は、あまり大事でない単語をサークルの外側に、放射状に配置します。関連する単語も外側に置いたりしてみています。

blunt と同じ「ぶっきらぼうな」という意味の単語 curt をサークルの外側に足したら、隣の blurt と韻を踏んでいて嬉しかったの図です。

  • blunt なまくらな、ぶっきらぼうな
  • curt ぶっきらぼうな
  • blurt 口を滑らせる

こういう小さい発見をつないで言葉のネットワークを広げていくところが、ゲームっぽい。

Line

Line パターンは、本や映像などの、ある程度長いコンテンツから、知らない単語を含むフレーズを抜き出して一列に並べます。

語られている内容のあらすじが、意味を思い出す助けになります。

TVドラマ glee

小説

Moon Palace

Moon Palace

TED

全てのフレーズを完全に暗記するというよりは(そんなことできる気がしないので)、フレーズを見たときに意味が思い浮かべばいいかというつもりでやっています。

また、副次的な利点として、内容が頭に入る、というのがあります。 自分は小説を読んでもぼんやりとした印象しか残っていないことがほとんどですが、 Line を歩いていると、あらすじを説明できる程度には物語が頭に入ります。普通に読むよりもずっと、物語の構造が把握できるような気がします (気のせいかもしれませんが)。

Scene

Scene パターンは、複数の単語を組み合わせて、ドラマチックな場面を作ります。

preach 説教する / plead 嘆願する / heed 傾聴する

clout 権威・一撃 / conceal 隠し持つ / clot (血などの)どろっとした固まり

repulsion revulsion 嫌悪感
impulsion 衝動 / compulsion 衝動・上からの強制力 / convulsion 痙攣
complaint 抗議・不平 / composure 沈着・平静
expulsion 排除・駆逐 / expel 追い出す・発射する / compel 強制する・強要する
plunge into 飛び込む

Circle よりも自由で、その分、想像力が必要になります。あまりうまくはやれていませんが。

Circle で粗筋を作り、周囲に放射状に Scene を配置し、物語のディテールを埋めていく、みたいなこともできるかもしれません。

辞書について

Spotlight 辞書

単語の意味は、看板に書いていません。

最初は、裏側にもう1枚看板を貼って意味を書いてみたりしたのですが、面倒くさいのと、Mac 版のマインクラフトは日本語が書けず、また、簡単に Spotlight 辞書で検索できるのでやめてしまいました。

Spotlight にはショートカットキーを割り当てて(デフォルトは コントロール+スペース)、ゲーム中にいつでもショートカットキーで呼び出せるようにしています。 Spotlight に単語を入力した後、辞書で開くショートカットは Command + L です。

マインクラフトがフルスクリーンだとショートカットが効かないので、ウィンドウを最大にして実行しています。

Wisdom2 (iOS)

他に、物書堂の Wisdom2 (iOS)を使っています。2,900 円。

素直なインタフェースで使いやすいアプリです。

Circle パターンで単語のグループを作るために、パターン検索を使います。 例えば「bl で始まって t で終わる単語」(blast, bleat, bleast, blight...) を bl*t で検索します。知らない単語がだいたい12個くらいに収まりそうなパターンを探すのが、楽しみになります。

オンラインだと、OneLook dictionary があります。ただ、これだと(自分程度の語彙力では)ちょっとレベルが高すぎでした。

ゲームの話

元々マインクラフトは、地下の「ゲームらしさ」に比べて、地上は、好きなように使えば?と放置されている感じがあって、そこに記憶の宮殿がうまくはまる気がしています。

語彙のネットワークを広げていく作業は、地下の洞窟探検によく似ています。コツコツと掘り進めていくと、突然視界が開けて、よく知っている場所に出ることがあります。あ、この洞窟はここにつながってるのか!という発見があります。

例えば、tin* で始まる単語を調べていて、tinker 鋳掛屋(いかけや)という言葉を初めて知りました。

Tinkers

大阪では夫婦が仲良く出かけることを鋳掛屋と言った、とか、これだけでも十分面白いんですが、鋳掛屋について調べてから何日か経って、朝ふとんの中でぼんやり tin* のサークルを思い出していて、突然 tinker ってティンカーベルの tinker なのか!と思ったんですね。

そういえば子供の頃に、ティンカーベルが鍋や釜を直す仕事というのが、なんか妖精のイメージと合わなくてヘンなの、と思ってたのも思い出した。

これを思い出した瞬間、 tin* のサークルに血が通う感じがしました。tinker の隣は、tinkle 鈴がチリンチリン鳴る、などの意味で、Tinker Bell のネーミングに tinkle がイメージされていたのかは調べてもわからないのですが、もうこの2つの単語は死ぬまで忘れないだろうなと思いました。

今この記事を書いていて、ディズニーのティンカーベルには双子の姉妹、ペリウィンクルというのがいるのを知ったんですが、periwinkle といえば glee シーズン1第2話冒頭の "Look, we much, periwinkle" (青紫でお揃いだわ) → "Get a room" (部屋とったら?/いちゃついてんじゃねーよ) です。

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2つの単語の位置関係を憶えているので、tinker から periwinkle に向かって伸びるアーチを思い描くことができます。ある単語を空間内の位置とセットで思い出せる、というのは、いままで自分の脳には無かった機能で、不思議な気はしますが、特に無理をしている感じはしません。

上で書いた blunt - curt -blurt の話もそうですが、単にマインクラフトが学習にも使えますね、という話ではなく、ゲームとして有機的に結合している感覚があって、それが、今やっていることの一番の面白さだと思います。

ストラクチャーブロックによるパターンの共有

自分で作る方が楽しいし効果的な気はしますが、量をこなすことを考えると、人が作ったパターンを取り込めたほうがいい気もします。

マインクラフトは最近のリリースで、範囲を指定して構造物をファイルに書き出せるようになりました。ストラクチャーブロックという機能です。

ストラクチャーブロックについては、こちらの記事がわかりやすかったです。

試しにサークルをストラクチャーファイルに書き出して、ダウンロードできるようにしてみようかなと思います。(準備できたら、ここにリンクをはります)

おまけの Tips

以下蛇足です。

エンダーマンに運ばれてしまうので、土に額縁を貼るのはやめた方がいいです。 いつの間にか希少なアイテムが消えていたことがあって、土をサンドストーンに切り替えました。

雷雨で火が付くので、TNT を地面に直に置くのも避けた方が良さそうです。額縁に入れています。 まあ大抵大丈夫だと思いますが、、、雷が鳴ったらさっさと寝てしまえばいいのかもしれません。

テレポートコマンドブロックを作るために、チートコマンドをオンにしています。テレポートは、世界をブックマークする機能として必要です。ゲームをスポイルするつもりはないんですが、無意味に長距離を移動するのはさすがに苦痛なので……。

すっきりまとまった記事が見つからなかったので、以下、テレポートコマンドブロックの作り方。

  1. F3 キーでワープしたい場所の座標を調べる。間違えるとしぬので慎重に
  2. /give @p minecraft:command_block でコマンドブロックを得る
  3. コマンドブロックを適当な場所に設置
  4. /gamemode 1 でクリエイティブモードに切り替え
  5. コマンドブロックにテレポートコマンド設定 /tp @p 123 -234 345
  6. /gamemode 0 でサバイバルモードに戻る
  7. コマンドブロックにレバー等を付ける

バグだと思うんですが、手元の Mac 版では、テレポート後にベッドに入ると、起きたときに金縛り状態になってゲームを一旦終了させるしかなくなる、という現象が起きています。目が覚めているのに何もできない、というのは、なかなかぞっとする体験で面白いんですが直してほしい。

自分はマルチプレイをやったことないんですが、サーバ上で各人の記憶の宮殿を混ぜるのも、きっと面白い体験になると思います。いずれ、1つの VR 空間に全世界の人々の記憶の宮殿を構築するサービスなんかが生まれて、死語になりつつある「サイバースペース」の復興が起こるかも、などと想像しています。